CREATOR INTERVIEW VOL.17
「期待の斜め上を越えていく」ライデンが切り開くWebプロダクションの未来とは
RYDEN.Inc
「ライデンに頼めば、なんとかしてくれる」
予想を超えた解を生み出すのがライデンの仕事。
企業のブランド戦略、インタラクティブ領域全般の企画・制作を行う株式会社ライデン。同社はきゃりーぱみゅぱみゅのMVにおけるタブレット完全同期システムや、六本木ヒルズのイルミネーションLED制御など、Web制作の領域のみならず、デジタルとアナログの垣根を越えた「体験創造企業」として世の中に話題を提供し続けています。 そこで今回、あらためてライデンはどういった企業なのか、またWebプロダクションの未来について代表取締役の井上雄一郎氏、テクニカルディレクターの松本英夫氏、デザイナーの野田純生氏にお話を伺いました。
「荒川に飛び込んでお詫びを、と思ってました(笑)」―― “解” が見えている仕事はつまらない
ライデンのポートフォリオを覗くと、Web制作の案件からメディアアートの案件に至るまで、様々な実績が並ぶ。あらためてライデンとは一体どういった企業なのだろうか。
松本:以前、きゃりーぱみゅぱみゅさんの新曲のMVの仕掛けづくりをお手伝いさせていただきました。MVにおけるタブレットの同期システムを制作したのですが、MV撮影って時間にあまり余裕がない一方、やることも多いんですよ。僕らのせいでNGにできないので、ドキドキする案件でしたね。
なんでライデンがMV制作?と思われるかもしれませんが、実はiPadのSafariが動いていて、WebSocketで実装しています。一見畑違いに見えるんですが、Webの技術を使って問題解決をしている、という点で実は繋がっていて。僕たちは基本的にWebサイト制作の案件が多いのですが、メディアアート的な案件もあったりと、いろいろな案件を担当させてもらっています。なので、フロントエンジニアとしても楽しい案件が多いんじゃないかな。
井上:比較的チャレンジングな案件が多いと思います。というのも、最初から「解」が見えているのはつまらないじゃないですか。できると分かっているものだけでなく、できるかどうか分からないものもたくさんありましたね。
たとえばある案件で、松本に「今の状況どう?!」と聞くと「完成する見込みは、ないね」って言うんですよ。
松本:お披露目する2時間前にようやく解決できたんですが、それまではもう「いかにポーカーフェイスをキープできるか」しか考えていなかったですね(笑)。
井上:他の案件でも現場が荒川の近くだったのですが、「最悪、完成しなかったら荒川に飛び込んでお詫びを」とか思ってましたね(笑)。ただ、Webサイトに限らず、モノづくりを通じて問題解決をするのがライデンの仕事。
なので「ライデンはどんな会社なのか?」と聞かれると表現が難しいのですが、「ライデンと仕事して楽しかったな」「ライデンに頼めば、なんとかしてくれる」そう思ってもらえる会社でいたいなと思っています。ただ、完全に畑違いというか、「他の会社に頼んだ方がうまくいきますよ、絶対に」というご相談もありますけどね(笑)。
「完全無欠のカッコよさを僕らはアウトプットしない」追求するのは、ユーザーの記憶に残るクリエイティブ
クライアントのクリエイティブパートナーとして、はじめから「解」が見えていない案件にも前向きに取り組むライデン。もちろん様々な困難にも直面するが、ピンチを乗り越えるために必要なのは「人間力」だと井上氏は語る。
井上:ライデンの案件は規模感が大きいものはもちろん、どれもチャレンジングな案件が多いんですね。そのため、もちろん現場がピリピリすることもたくさんありますが、そういった状況を打破するのってスキルだけじゃなくて、「人間力」も必要だと思うんですよ。
たとえば、状況が良くなくて雰囲気が落ち込んでいるときでも笑いを生み出したり、和やかな雰囲気づくりができるメンバーがいるといないのとじゃ、大違いじゃないですか。
そしてチームでやる仕事なので、問題解決のためにメンバーひとり一人が同じ方向を向いて考えることが大切だなと。だから「人間力」って何かというと、コミュニケーション能力かもしれないですし、プロジェクトの文脈を理解した上で最適解を探していくバランス能力かもしれない。
そういった「人間力」を大切にしているからこそ、ライデンにはスリルを楽しめる人、ピンチ的状況を楽しめる人が多いなと感じています。私自身、プロデューサーとして参加している場合は、実装に入ったらやることはそんなになくなるので、何かできないかなと思って、「うまくいきますように」とひたすらトイレ掃除ばっかりやってたこともあります(笑)。
「人間力」を大切にするライデンは、アウトプットにおいても完全無欠なクリエイティブではなく、血の通った、 “ライデンっぽさ” を感じられるクリエイティブを追求している。
井上:Webプロダクションには、綿密な設計があって、めちゃくちゃカッコよくて、機能性の高いUIにこだわったりと、完全無欠のクリエイティブを出す企業もあると思うのですが、ライデンはそういった “完全無欠のカッコよさ” をアウトプットしていません。
もちろんストーリー、アートワーク、テクノロジーがこの会社を支える柱であることに変わりはないのですが、どちらかと言うと「あっ、ライデンぽいな」と思われる、人間の匂いがする仕事をしたいんですよね。そのため、「抜け感」「はずし感」みたいなことは、アウトプットにおいて意識していることです。
野田:僕がライデンに入社して面白いなと思ったのは、毎週金曜日になると「バチェラー・ジャパン」(恋愛ドキュメンタリー番組)を見始めたり、「○○のアイドルが不倫したらしい」といったどうでもいい会話が仕事中に多いし、昭和の歌謡曲がガンガン流れてたりするんですよね(笑)。
しかし、さきほどの「人間力」の話もそうなのですが、バランス感を持って仕事をしているからこそ、ピンチ的状況を楽しめることはもちろん、たとえばクライアントから “もやっ” とした依頼が来たとしても、しっかりと形にしていくプロデュース上手なメンバーが多いのかなと思っています。
井上:なので語弊を恐れずに言えば、全方位的に万能な人、平均点的な人はライデンには合わないかもしれません。どちらかと言えば、 “突出したものを持ってるけど、ある部分でダメな人” の方が合っているなと。
なぜなら、ライデンがお付き合いをしているクライアントの担当者の方々は、みなさん経験豊富な方々なのですが、そういった方々に「あははは!この発想はなかったです!」と驚かれるような、クライアントの予想を超えていく提案をライデンはしたいんですよね。そういったクライアントの予想を超える、インパクトのあるクリエイティブは、最終的にユーザーの記憶にも残りますから。
だからこそ、メンバーも平均点的な発想ではなく、飛び抜けた発想をしちゃう、クセの強いメンバーがライデンには合うかもしれません。
働き方が多様化する中、クリエイターが企業で働く意味とは
昨今、企業に属して働くだけでなく、フリーランスや副業などの選択肢が増え、クリエイターの働き方は多様化している。しかし、もしクリエイターとして挑戦をし続けたいのであれば、ライデンのような、クリエイティブを追求できる環境に身を置くことは重要だ。
井上:クリエイターの働き方は、フリーランス同士が案件ごとに集まるギルド形式がこれからの理想的な形態なのだと思います。しかし、フリーランスとなると責任の範囲も広くなるし、事務的なことも含めてやることが単純に多くなってしまいます。
一方、企業に属してチームで仕事をすることのメリットは、会社に属していなければ出会えない人と仕事ができたり、企業単位でないとできない案件ができることかなと思うんですね。そして、ライデンの案件は短期間で社会に消費されることを目的とした案件が多いので、旬な表現をできたり、いろんな手法を追求してみたりと、挑戦できる案件が多いのが楽しいです。
フリーランスとして様々な企業の案件をやっていると、なかなか自分のクリエイティブの軸を定めにくい部分もあるのかなと思っていて。企業に属すことで、フリーランスではできない規模感の仕事ができることはもちろん、クリエイターとしての軸を定めることができると思っています。
松本:特にキャンペーンサイトは、数ヶ月とか長くても半年とかの期間でしか使われません。例えるなら、「打ち上げ花火」みたいな案件なんですよ。そういった打ち上げ花火を必死で準備して、最終的に世間で話題にしてもらえたとき、「実はこういう技術を使ってやったんだよね」と自分たちだけが感じられる達成感がとてもありますし、毎回新しいことにチャレンジをし続けているので、同じ打ち上げ花火は打ち上げません。
だからこそ、サーバーにアップロードして納品をするときが、一番カタルシスを感じます(笑)。
そして、デザインチームからあがってくる要望をいかに最適化するか、実装面からもっと良い解を出せるかなどは、フロントエンジニアの腕の見せどころ。ウェブサイト制作という仕事は、アートとテクノロジーの総合技術だと思うので、最終的に人の心に残れるものをつくれるのは単純に楽しいですよ。
井上:ライデンのメンバーは、デザイナーがフロントエンドに興味を持っていたり、逆もしかり、お互いの技術領域に興味を持っていて、お互いをリスペクトし合える環境があるなと感じています。
また、ライデンは外部のパートナーと一緒に仕事をすることも多いのですが、フリーランスの方々って孤独だと思うんですよ。だから私たちも、なるべくフリーランスの方々と一体感を感じられる環境を用意してあげたいと思っていて。たとえば細かいことで言えば、フリーランスの方から連絡があったら「いまから確認するよ!」と即レスをしてあげたり、いま大変な時期だなと思ったら元気になってもらえるよう、ライデンのメンバーが踊ってる動画を撮って送ってあげたり(笑)。
気づいたら、そうやって一緒に仕事をしていたフリーランスの方がライデンに入社してくれてたりして。一緒に打ち上げ花火の感動を共有できるメンバーがいるのは、やっぱり嬉しいですよね。
「面白い技術領域だなと思ってます」次世代のWebサイトはどうあるべきか
Web領域は日々目まぐるしいほどの変化を遂げている。そんな中、Webプロダクションとしてライデンは新しい技術を常に追い求め、次世代のWebサイトはどうあるべきかを追求している。
松本:エンジニアにとって、次にくる技術は何か、どの技術の波に乗るべきか、どのスキルに時間をかけるべきかは、常に考え続けなければなりません。たとえば僕自身も新しい機材であったり、新しいテクノロジーを試しておかないといけないと思っていて。中途半端にしか知らない領域に踏み込むのはやはり不安なので、結果的に使わないけど(新しい機材を)買ってしまうということも多くあります。
なので、ある案件で「中国から買い付けないといけない機材がある、だけど明日までには必要」という状況があったんですね。そしたらその機材を僕が偶然持っていて、難を乗り越えたことがありました(笑)。
一方、フロントエンドの目線から見ると、レスポンシブに代表される、あらゆるデバイスでWebを最適化するという、ひとつ時代の大きな流れがあって、続いてWeb Components、Web Assemblyなど、これまでのWebサイトの作り方を変える可能性のある技術が出始めていて、技術との関わり方も変わってきています。しかし、ライデンは小所帯なこともあって、全てを追って一歩先をいくと息切れてしまいますから、0.5歩先くらいをいって、しっかりとしたクオリティと基本線を守って行くことも大切です。
そのため、変化の激しい中、新しい技術をなるべく拾って行きつつ、面白いものを作り続けていきたいなと思っています。
井上:昨今はWebサイトのプレゼンスが下がってきています。昔はかっこいいWebサイトをつくれば目立てた時代もありました。だけどいまはWebサイト自体で目立つ、というのはなくなってきていますよね。どちらかというと、面白い動画であったり何かしらのコンテンツを発信する “箱” 化が進んでいます。
そのため、Webサイト自体に最先端の技術を取り込んでいたとしても、Webサイトだけで世の中に与えられるインパクトは少なくなっているんです。しかしライデンはWebプロダクションですから、じゃあWebサイトのプレゼンスを上げるにはどうすればいいか、次世代のWebサイトはどうあるべきかを考えるべきだなと。
松本:個人的にはWeb Assemblyにいま興味があって。HTML、CSS、JSの組み合わせに対して、もう一段進化して穴をあけるというか、Webとは別の世界線にあったエコシステムとWebを、ダイレクトに接続できる仕組みが出来つつあります。 “ブラウザ” というものがもう一段進化して、いままでの技術分野とは違うところで花開くのかなと思ったりしているんです。
僕は94年からWebの仕事をしていますけど、飽きないんですよね(笑)。なぜなら日に日に面白そうな技術が出てきているので、本当に面白い商売だな、面白い技術分野だなと思ってます。
井上:松本は松本なりのビジョンを持っていて、私は私なりのビジョンを持っているんです。私は世の中から「ありがとう」と言われるアウトプットしたいと思っていて、人の役に立てるなら、「居酒屋ライデン」でもいいと思っていて(笑)。
必ずしも、同じビジョンをメンバー全員が持っている必要はないと思っています。しかし、メンバーひとり一人、小さいことでも無茶苦茶なことでもいいからビジョンを持っていてほしいんです。
「この会社でスキルを身につけたら出家してクリエイティブ僧侶になる」とか「いつか故郷の地域活性化に取り組む!」でもなんでもいいんです。なぜなら、困難な状況なとき、壁にぶつかったとき、自分のビジョンを持っている人間には乗り越える力があるから。ライデンは、そういった各々のビジョンを持った大人たちの集団でありたい、それがライデンの描くビジョンかなと。
取材を終えて
今回インタビューを通じて、ライデンが常に新しい技術を取り入れ、新しい表現を追求する姿勢を強く感じました。ライデンは現在、社員・フリーランス含めて8名体制の組織です。そんな少数精鋭の組織だからこそ、チームとしての結束力が生まれ、クライアントの予想を超えるクリエイティブを生み出すことができるのでしょう。
「はじめから “解” が見えているのはつまらない」そう感じているフロントエンドエンジニアにとって、思い切り表現を追求し、切磋琢磨できる環境がライデンにはあります。Webプロダクションとして、今後どのような「解」を世の中に生み出していくのか、ライデンが描く「次世代のWebサイト」とはどういったものなのか、私たちの予想を超える結果に期待を隠せません。
取材・文:永田優介 撮影:鈴木愛子