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CREATOR INTERVIEW VOL.68

マルチプレイヤーだからこそ思う。大事なのは職種や肩書きじゃなくて、自分のスタイル

Birdman inc.

マルチクリエイターであるがゆえの葛藤は?マルチクリエイターであるがゆえの悩みや葛藤を乗り越え活躍する、BIRDMANのディレクター 竹内冠太氏に話を聞いた。

「デジタルクリエイティブ」の枠すらも飛び越え、アウトプットの手法をどんどん広げていくBIRDMAN。チャレンジしたい人の集まりでもあり、ひとつの肩書きにとらわれないクリエイターが多く、案件ごとに職種が変わることも。 そんな会社で現在はディレクターとして活躍する竹内冠太氏は、映像制作・編集、CG制作、写真と様々なスキルを持つマルチクリエイターである。しかし、BIRDMANに入社するまでは、自らの居場所に悩んだ時期もあったという。 そんな竹内氏にとって、マルチなスキルを身につける原動力は何だったのか、マルチクリエイターであるがゆえの葛藤は? 竹内氏の今後のキャリアイメージと合わせて話を伺った。


「特定の肩書きに納まる仕事は向いていない」気分に合わせてやりたいことをやってきた

竹内さんのこれまでのキャリア遍歴を教えてください。

大学卒業後は、KMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)に入り、デザイン思考について研究しているときに3DCG制作ソフトのCinema 4Dと出会いました。学校自体はモノづくりが推奨される環境だったので、学校での研究とは別で個人的に映像制作やCG制作をやっていました。

そこから新卒で株式会社リクルート(以下、リクルート)に入社し、ディレクターとして新規Webサービスの立ち上げと運用を担当していました。映像やCGはまったく関係なく、まずは規模の大きい企業で働いたほうがいいかな、と思って入ったんですよね。

 
 

ただ入ってみると、立ち上げ期は良いのですが、運用フェーズはスケジュールに沿って進めていくといったマネジメント要素の業務が多く、当時の自分はそういったことが得意ではなかったため、向いていないなと感じて。

自分にフィットするかしないか、という感覚が自分の中では大きな判断基準でもあったため、結局リクルートを1年半で退職し、そこからは友人の会社を手伝ったりしていました。

写真をはじめられたのも、その時期ですか?

写真を本格的にはじめたのは、新卒1年目のときです。リクルート時代に、高校の先輩である写真家の新納翔さんと8年ぶりに会ったんです。高校生のときは「学校辞めて、写真家になるわ」と言っていた新納さんが、8年ぶりになったら本当に写真家になっているし、海外からも評価されるスゴイ人になっていて。

そんな新納さんに僕が撮った写真を見せたのですが、あまりお世辞を言わないタイプの方なのに「いいじゃん」と褒めてくださったのをきっかけに、どっぷり写真にハマっていきました。

映像制作にCG制作、そして写真とマルチな武器を持つ竹内さんですが、様々な領域に取り組む動機はなにかあるのでしょうか?

昔から、自分はあれこれやってみたい人間なんだな、とは思っていました。目標があって、それに対してやるべきことをブレークダウンしていくタイプの人と、いろいろやって振り返ったら何かしら自分の道を歩んでいた、というタイプがいると思うのですが、僕は完全に後者。

なので、いろいろなことに手をつけて「本当にこれでいいのだろうか」と悩んだ時期もありましたが、気分に合わせてやりたいことをやってきました(笑)。

 
 

BIRDMANに入社を決めたのも、BIRDMANならやりたいことを幅広くできる、と思ったからです。リクルートを辞めた後、個人でいろいろなところをお手伝いしていくうちに「やっぱりどこかにがっつり所属したい」と思うようになって。

ただ、特定の肩書きに納まる仕事は自分には向いていないと思っていましたから、なんでもできる会社はないかなと探していました。そんなときに、BIRDMANの代表である築地さんと話をする機会があって、「写真も、映像もCGも、やりたいことができる環境だよ」というお話を伺い、ここしかない!と思い入社しました。

「自分がやったほうがいい」と思ってしまってはディレクター失格。マルチクリエイターとしての葛藤とは

様々なスキルがあったからこそ実現できた、と思える具体的な案件は何かありますか?

BIRDMANでの案件は、大体の案件がいろいろなスキルを求められる案件です。あえてひとつ例を挙げるなら、『白い部屋から脱出』(カフェ・ド・パリ)はスチール撮影はもちろん、プロジェクションマッピングのためのCGを使ったハードウェア的な検証や、キービジュアルの撮影、ティザームービーの撮影・編集、プロジェクションマッピングのコンテンツ作成、そしてアワードムービーの撮影・編集と、僕ができる制作領域の引き出しは全部出したなと思える案件でした。

 
 

マルチクリエイターであるがゆえに、難しさや葛藤を感じることもあるのでしょうか?

いまディレクターという立場になり、いかにメンバーをプロジェクトに巻き込むか、いかにメンバーに考える余地を与えるのかという塩梅に難しさを感じています。Webも写真や映像もわかっているからこそ、全体のスケジューリングであったり、プロジェクト設計において抜け漏れなくできるという点は良い面だと思っているのですが、「自分がやったほうがいい」と思ってしまっては、ディレクターとしては良くないじゃないですか。

また、自分だけで完結するモノづくりであれば自分が納得すれば完成ですけど、人と一緒に制作をするとなると、誰が何を言っていて、何を求めているのか、ということを理解しないといけません。

そういった全体感を理解したモノづくりをできるようになりたいと思い、ディレクターとしてどういったコミュニケーションをとるべきなのか、どうすればメンバーが動きやすくなるのか、メンバーそれぞれが自分の役割を意識するためにどうすればよいか、といったことを最近は常に考えています。

BIRDMANは本当に自由にモノづくりができる環境「最近はギターをつくりました」

竹内さんは一度BIRDMANを離れ、そしてまた戻ってきています。その理由を教えてください。

当時、職人としてこのまま現場でのスキルアップを突きつめていくのか、それともビジネスのことも包括してできるクリエイターとなるのか、自分自身のキャリアに悩んでいたんです。そこで一度ビジネスサイドを見てみようと、リクルート時代の尊敬する先輩がCTOを務めるベンチャー企業に入りました。

そこではコンサルとしてクライアントの経営者と密にコミュニケーションがとれる環境であったため、面白さはありました。ただ、社内にクリエイターが自分だけだったので、単純に寂しくなってしまって(笑)。

クリエイターが集まった環境でのチームワークが恋しくなり、BIRDMANに戻ってきました。BIRDMANって、「我々は○○の会社です」というような定義をあまりしていなくて、「メンバーが120%その人らしくある、その総体がBIRDMAN」という考え方なんですよね。

 
 

だからこそ、ポジショントークみたいなものもありませんし、モノづくりに対して本当に自由にできる環境であるところがあらためて良いなと、BIRDMANに戻ってきて感じています。

いまでも個人でのモノづくりは行っていますか?

最近で言うと、エレキギターを自作しました。大人になったし、一本新しいのを買おうかなと思ったんですけど、せっかくこんな会社にいるんだから、自分でつくってみようと思って。

竹内さん自作のエレキギター。「教えてもらわないと自作だとわからない」のではなく、自作だと言われても信じられないほどの徹底したクオリティ
竹内さん自作のエレキギター。「教えてもらわないと自作だとわからない」のではなく、自作だと言われても信じられないほどの徹底したクオリティ

 
 

ボディ自体はオーダーしたものなのですが、表面加工や塗装、中の配線などは2ヶ月くらいかけてせっせとつくりました。塗装が結構大変だったんですよ。会社の工房があるので、そこで塗装して乾かす工程を10回以上繰り返して。結果的にめちゃくちゃクオリティの高いものに仕上がったんですけど、キレイに出来すぎたせいか「普通にギターじゃん」みたいな感じで逆に誰も驚いてくれませんでした(笑)。

BIRDMANの社屋内にあるラボには、クライアントワークはもちろんのこと、プライベートワークに使用することもしばしば。つくることに対して寛容なBIRDMANの姿勢が手に取るようにわかる秘密基地。竹内氏のギターもここでコツコツ作り上げていったそう。
BIRDMANの社屋内にあるラボには、クライアントワークはもちろんのこと、プライベートワークに使用することもしばしば。つくることに対して寛容なBIRDMANの姿勢が手に取るようにわかる秘密基地。竹内氏のギターもここでコツコツ作り上げていったそう。

BIRDMANの社屋内にあるラボには、クライアントワークはもちろんのこと、プライベートワークに使用することもしばしば。つくることに対して寛容なBIRDMANの姿勢が手に取るようにわかる秘密基地。竹内氏のギターもここでコツコツ作り上げていったそう。

BIRDMANのメンバーには、こういったプライベートのものづくりをやっている人は多くて、ちゃんと仕事でやることをやっていれば、みんな何も言わない。みんな「あいつ、ずっとギターつくってるな」と思っていたとは思いますけどね(笑)。

クリエイターを取り巻く環境は大きく変化しているからこそ、自分の感覚に素直になり、行動していきたい

今後、竹内さんがBIRDMANでやりたいことは何ですか?

2つあって、1つは案件をもっと自分ごと化できるようになりたいと思っています。いまでもプライベートで映像をつくったりするのですが、そのときはワガママにモノづくりができる。しかし会社の案件となると、語弊を恐れずに言えば、ワガママになりきれていない、自分ごと化できていない部分があると思っていて。

仕事とプライベートの切り分けは人それぞれグラデーションがあって良いと思っていて、きっちり白黒分ける人もいれば、密に繋がっている人もいますよね。僕は後者のタイプではありますが、もっと隔たりなく、一体化させたいなと思うんです。

そのほうが幸せだと僕は感じられるし、会社にとっても僕がいる意味を見出しやすいのではと思っています。

そしてもう1つは、BIRDMANの環境づくりを積極的に行っていきたいと思っています。BIRDMANはビジョンもミッションも、社内ルールも特にないのに、 “BIRDMANらしさ” のようなものが保てているのがすごいなと感じているんですね。

 
 

ただ、現在メンバーは40人弱いて、もしかしたらそろそろビジョン、ミッションといったものをつくるフェーズかもしれません。メンバーの仕事に対するモチベーションは人それぞれで良いと思うのですが、少しでもメンバーひとり一人が過ごしやすい環境をつくれたら、それに越したことはないじゃないですか。

クリエイターが成長するために必要なものは何だと考えますか?

クリエイターが成長するために大事なのは、ハマる環境にいるかどうかだと思っています。ハマる環境、すなわち自分がフィットする環境にいると、アウトプットが出せる。そして、フィットする環境で得意でかつ好きなこと、そして人からちゃんと評価されることが見つかると幸せじゃないですか。

また、これからの時代はひとつの肩書きで自分を表現できない人が増えてくると思っていて。たとえば、「映画監督」みたいなわかりやすい肩書きがなくなってくると思うんですね。

そのときに自分のスタイルがあるかどうかが大事。今後、会社に属さずにプロジェクトベースで動くクリエイターも増えてくると思うのですが、「この人はどんな人なのか?」ということを自分自身で答えられないと、もちろん他人からもわからないわけです。自分がどういったクリエイターなのか、何がやりたくてクリエイティブをやっているのか、といったことを自分の中でしっかりと言語化できていれば、いまいる環境がフィットするかどうかも自ずと見えるのかなと思います。

竹内さん自身は今後、どんなクリエイターを目指していきたいと思っていますか?

基本的にはこれからも、明確なゴールに向けて突き進むというよりかは、そのときやりたいことをやるというスタンスは変わらないかな、と思っています。

 
 

もちろん個人的には映像や写真など、ビジュアルを通じて世界観をつくるのがやっぱり好きなんですが、最近ではBIRDMANの案件で広告案件が占める割合は1割程度で、狭義なデザインではなく、ユーザーにいかに新しい体験を届けるかといった、サービスデザインの案件が増えてきました。それは意識的に案件内容を変えていったというよりも、時代の流れでたまたまそういった案件が入ってくるんですよ。

そういったデザインを取り巻く大きな潮流の変化を感じていて、その中で「いま自分は何がしたいのか」というのはあらためて考え、もやもやや違和感を感じたら気づかないふりをしてやり過ごすのではなく、自分の感覚に素直に向き合って、違和感を取り除くための行動を取っていきたいなと思います。