CREATOR INTERVIEW VOL.74
いま働いているクリエイティブ業界や会社の未来に、ワクワクできていますか?
STUDIO DETAILS Inc.
国内外のアワードを数多く受賞し組織成長の一端を担う武井氏。彼は組織の成長戦略をどのように描いているのか…そしてクリエイティブ業界で見据えていることとは?
デジタルもアナログも「すべてできる」ではなく「すべて尖る」。そんな “全方位的クリエイティブ集団” を目指し、国内外のアワードを数多く受賞している株式会社スタジオディテイルズ</a>(以下、STUDIO DETAILS)にジョインした武井遼太郎氏。 新卒で株式会社リクルートコミュニケーションズ(以下、リクルート)に入社し、採用マーケティングからサービス開発、またマネージャーとして組織マネジメントに関わってきた武井氏は現在、事業戦略、HR戦略の視点からSTUDIO DETAILSの組織成長の一端を担う。 今回、武井氏が会社といかに向き合い、組織の成長戦略をどのように描いているのかから、STUDIO DETAILSがこれからのクリエイティブ業界で見据えていることまで、話を伺った。
自立性が育つ組織にしていくために、まずは中間層の自立の開発が必要
STUDIO DETAILSに入社することになったキッカケや経緯を教えてください。
はじめて社長の海部、副社長の服部と出会ったのは、2013年でした。当時の僕はリクルートのディレクターとして名古屋で働いていたのですが、飲み会で知り合ったのをキッカケに、STUDIO DETAILSにお試し感覚で制作を依頼したんです。するとプロセスもアウトプットも驚きのクオリティで、一気にファンに。それから自分が持っていた大型案件も依頼するようになり、良き制作パートナーとなりました。
僕が東京や大阪へ転勤した後も半年に1回のペースで飲みに行くようになり、HR的な悩みの相談を受けたり、「STUDIO DETAILSに入らないか?」みたいな話が出てくるようになりました(笑)。
リクルートではサービス開発に関わったり、マネージャーとして組織の戦略を立てたり、メンバーのマネジメントをしたりと様々な経験を積んできました。新卒入社から10年を超え、今後を考えたときに、基盤も歴史もある大きな組織の中でのキャリアを志向したいのかと考えてみると、ちょっとだけ違和感があったんです。
自分のキャリアにそこそこの自信も持っていた。でも、もっと自分の限界を超えて価値発揮が必要となる、ヒリヒリするような機会に踏み込んでいきたい気持ちもある。そんなタイミングで、会社の急激な成長の中で組織課題がみるみる大きくなっていたSTUDIO DETAILSに改めて誘っていただき、ジョインすることにしたんです。
実際にSTUDIO DETAILSに入社して、30人規模の組織成長には何が重要だと感じていますか?
正直今は、足りないことだらけの状況を楽しんでいます(笑)。組織の成長は、売上・メンバーの数・人材の成長・顧客の評価・業界での評価など色々な目線での議論があると思います。当社で言えば、いまは“メンバーの自立性を育む組織マネジメントを構えること”が重要だと感じています。僕たちは定形のモノやサービスを売る会社ではなく、自分たちの手で、しかもフルカスタムでお客様の価値を高めるクリエイティブにこだわっている会社。すなわちクリエイターこそが価値の源泉です。
創業間もない時からいるメンバーは、自分が動かないと事業が進まないことを知っている。でも、それなりの規模になって入ってきたメンバーは、この規模の会社なら仕事の仕組みや育成の体制もある程度整っているという期待をぼんやり持っていたり……自立性や責任意識が一見薄いように見えることも。一方で、社長・副社長は若いうちに起業して、とにかく走ってきた。メンバーと対話して自立性を開発して……という経験も少ないし、「自立って基本でしょ?」って思ってる部分もあるんですね(苦笑)。
STUDIODETAILSは、メンバーには「各々に自立性を持って働いてほしい」と本気で思っていて、「その先にみんなのハッピーがある」と信じている。でも、そこをみんなで信じられる組織になっていくためのプロセスや仕組みはまだ会社に用意できていないと思っていまして、自分の最初の仕事はここを整えることだと決めたんです。また、30人という規模は、経営層がすべてをコントロールするのは不可能。人数がもっと少ないときは、トップ層数人が自分の目の届く範囲で管理できる。そういうときは管理型で組織も伸びるし、その師弟関係で人も成長させられる。
でも、これからのSTUDIO DETAILSは中間層のメンバーにどんどん任せていかないと管理が回らなくなってきます。大きくなった組織で、トップが管理をしたいなら、実は「中間層の自立性を開発しないといけない」。これまでの管理のあり方から一歩引いたところから見つめ直し、組織デザインをしていかないといけないと思っていて、それを経営層たちと実行に移しています。
会社の成長にHR戦略を据え、採用をより重要視するように
コミュニケーションに関して、具体的に取り組んでいることは何かありますか?
まず行ったのは、すべてのメンバーと「今後どんなキャリアを描きたいのか」「なぜSTUDIO DETAILSにいるのか」などを、徹底的に話す機会を設けたことです。その時々のタイミング次第で、経営層は、メンバーの考えを現状から想定・予測をし、ものごとを判断しなきゃいけないことも多いのが実態だと思います。でもその予測からの判断は、メンバーからすると、意見を言っても聞いてもらえないと思われていたりすることもあります。それは両者にとって望まないことなので、自分がその橋渡しになれるようにコミュニケーションを取るようにしています。
また、メンバーに主体的に働いていってもらうために「2〜3年後どういうことをやりたいか」「そのためにどういったステップを踏むべきか」といった、未来について話す機会を増やし、自分ごと化された目標を持つこと、それを言語化し、共有して、日々意識してもらうことに取り組んでいます。このプロセスを踏むことにより、会社として各人へ提供すべき成長機会もリアルになって、機会提供も加速させられます。
コミュニケーション以外で、大きくやり方を変えたことは何かありますか?
他に大きく変えたのは、採用ですね。採用オペレーション、応募者コミュニケーションの見直しに取り組み、採用を強化しました。経営層へ自分の考えるHR戦略をぶつけながら採用予算への投資と採用ジャッジについて素早い意思決定をしてもらっています。
経営層はどうしても売上に思考を奪われがちじゃないですか。もちろん売上がなければ潰れてしまうため、売上を追うのは当たり前。とはいえ人数が増えてきた今は、これまでのやり方で売上を追うのではなく、事業戦略の中にHR戦略を据えてもっと意識的に会社の成長にチャレンジしていくタイミングだと思っています。
社長・副社長も当然、HRの重要性は理解しているんです。ただ、ふたりとも社会人経験がほぼないまま起業をしているので、ある程度の人数がいる組織のHRについては経験値としてわからない部分がある。そして、人が増えればいろんなコストが上がる。お金もかかるし、マネジメントコストもかかる。ましてミスマッチで入社してすぐ辞められたら……って経営者として色々当然怖いんですよね。そこに僕が入り、僕のノウハウをお伝えしつつ、ふたりに勇気を与えながら新たな組織体制づくりに取り組んでいます(笑)。
「メンバーからの反発が生まれてほしい」変化は誰もが怖いけれど、変化しないのが一番マズい
組織成長を支えていく立場として、経営層とのコミュニケーションで意識していることはありますか?
ひたすら、問いを投げかけるということです。語弊を恐れずに言えば、メンバーとのコミュニケーションよりも、経営層とのコミュニケーションの方が実は今は重要だと考えていて。
50人で10億の組織を目指すのか、500人で150億を目指すのか、目指す場所によって取るアプローチは異なります。STUDIO DETAILSはどういった組織を目指すのか、そしてどこまで組織を整えていくのかは経営層が決めること。
僕がやることは、経営層ふたりが考えるキッカケとなる問いを投げまくることだなと。僕が放り込む問いかけの中にはSTUDIO DETAILSとして譲れない、変えてはいけないこともあると思うんですね。それでも僕は「変えてみませんか?」と何度も投げかけています。もう一度悩んでもらい、そこでやっぱり変えないと判断したことであれば、変えなくていいことがSTUDIO DETAILSの軸であると改めて強く認識できるわけです。面倒臭いやつ採っちゃったなって思われてるかもしれませんけどね(笑)。
組織を整えていく、変えていく過程では、メンバーからの反発も生まれてくると思います。それについてはどうお考えですか?
変化は誰もが怖いもの。しかし時代が変化しているにも関わらず、自分たちが変化しないというのは一番マズいことだと考えています。
たとえば受託制作だけのビジネスモデルは、景気変化を考えたらリスクという見方もできる。受託制作とはまた別の売上づくりにチャレンジすることは、今の組織レベルまで来ていれば常にSTUDIO DETAILSの選択肢になり得るわけです。組織が本当に崩壊しない程度に、いろいろなことにチャレンジはしたいし、変化を思考することで、自分たちの強みや弱みを認識して、チューニングすることが大切だなと思ってます。
そして今は、メンバーからの反発という反発がまだないんですね。僕は、メンバーからの反発が生まれてほしいと思っています。反発するということは、主体性があるということですから。
与えられた枠組みの中で自由にやれたらそれでいいというクリエイターに収まってちゃいけない。前提の枠組みに自分たちをはめて考えるようになってしまったら、新たなステージがどんどん遠のくと思っています。組織も個人も、各々の意思・意見をもって、主体的にチャレンジをしていきたいですね。
レベルの高いクリエイターがしっかりと評価され、良いお給料をもらえる業界にしないといけない
武井さんは、なぜクリエイターは主体的に行動すべきであるとお考えですか?
クリエイターに限った話ではないのですが、この変化の激しい時代に、過去のやり方を前提とした成長の描き方ではどんどんキャリア形成が難しくなっていくと思っているからです。たとえば「自分はデザイナーだから最新のWebの技術はわからなくても仕方ない。それはエンジニアが何とかしてくれる。」と限定してしまうのはとても危険。過去のデザイナー像を捨て、世の中で求められるスキルを主体的に捉え、自らのスキル・ナレッジを獲得し続けていくことが重要だと思っています。
それを業界のクリエイターへのメッセージとするなら、クリエイティブを生業としている会社として、自分たちの業容のアップグレードも必要だと思っています。実際、自分も「良いクリエイティブがどれだけ売上に貢献しているか評価しづらいですよね」という会話をしてしまいがち。でも、その発言って、自分たちの業容を「モノの制作というアウトプットとその対価のやりとり」と捉えてる思考だなと思うことも。
そういう思考の状態だと、新たなバリューをメンバーに要望していくことも難しくなります。変化や主体性を社内に要望できるように、ビジネスの捉え方から変えていきたいなと考えたりもしています。
新しいことにチャレンジするって言っているのに、過去からの評価システムをそのまま維持しちゃう……みたいな会社も結構あると聞いています。新しい価値創造や価値総量のUPへ主体的に貢献できている人は給与もガンガン上がるという状態にしないと美しくないと思いますし、そういうことが普通に起きている業界でありたい。
それをクリエイティブを生業とする一企業が実現するためには、そもそも社会に認められるレベルで利益を出していないといけないと思います。そしてクリエイターがコミットしていること・価値を明確に社会へ示し、どういう人がどう活躍して、どう稼げる会社になっていくのかという繋がりを見える化することで、クリエイターを正しく評価するシステムが見えてくると思っています。
最後に、今後の展望について教えてください。
優秀な人材をクリエイティブ業界に輩出していくためにも、クリエイターを古典的なキャリアデザインにあてはめるのではなく、自分たちのビジネスのアップグレードを描きながら評価システム、教育システムを整え・磨きつづけ、新しい可能性を業界に提示したい。クリエイター達に嫉妬され、働きたいと望まれる会社にするのが今の目標です。
世の中のクリエイティブに対する期待値はいま、非常に高いと感じています。「このお題、どう扱っていいかわからない」という時に、STUDIO DETAILSと企みたいと期待してもらえるよう、ビジュアルのアウトプットだけにとらわれない価値創出を、クライアントはもちろん、クリエイティブ業界のみなさんと一緒にガンガンやっていけたらいいなと思っています。