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CREATOR INTERVIEW VOL.202

「大企業」の特性を強みに変えて ― 共創型Web制作で、自走できる組織をつくる

MULTiPLE Inc.

【Project Case】
数千ページを抱える巨大通信会社・KDDIが、あえて遠回りしてでもマルチプルと「共に創る」ことを選んだ理由。

「各部門の要望が詰め込まれ、お客様目線が抜け落ちてしまう」「異動によるメンバーの知識レベルのバラつき」。これらは、大企業のコーポレートサイト運用が長年抱える共通の課題です。 日本の通信インフラを支えるKDDI様もまた、同様のブランディング・組織課題に直面していました。そこでマルチプルが提案したのが、答えを提示するのではなく、クライアントの中に眠る『will(思い)』を引き出す「共創型Web制作支援」です。 納品されて終わりではない。メンバーの行動規範にまで波及し、社内で「平藤メソッド」と呼ばれるほどに浸透した、Web制作の新しいあり方の全貌に迫ります。


プロジェクト概要

行ったこと
・マルチプルが、KDDIの制作チームに参画し伴走支援
・トップページのデザイン刷新
・数千ページを考慮したデザインシステムを構築

KDDI株式会社――Spark Your Journey
KDDIの公式企業サイトです。KDDIの企業情報、ブランド、個人向け事業、法人向け事業、サステナビリティ、投資家情報、採用


課題:大企業ならではのジレンマ ブランディング・組織両面の課題

課題① 関わる人が多すぎて、社内の要望詰め込みになってしまう

KDDI 難波 貴則氏(以下、難波氏):旧コーポレートサイトは、かなり長いこと同じデザインを使っていました。それ自体が悪いわけではありませんでしたが、運用していくなかで「これはKDDIのサイトとして適切なのか?」と思うことも増えてきたんですね。

関わる部門がとにかく多いので、各部門の要望を集約していくと、どうしてもお客様目線が抜け落ちてしまいます。コンテンツのボリュームは肥大化していくけれど、「つまり、このサイトは何をいいたいのか」がわかりづらい。本当は前面に出していきたいメッセージや想いが、後ろに置かれた状態になっている。これは、長年抱えていたブランディングの課題でした。

課題② メンバーの知識レベルにばらつきがある

難波氏:大企業の特色として、部門をまたぐ人事異動が存在します。Webサイト担当の部門を見ても、専門スキルを持っている人間もいれば、定期的な異動で一からWebを学び始めるメンバーもいる。知識レベルは本当にバラバラです。

ネットで手に入るメソッドを使えば、ある程度スキルの底上げはできるのでしょうが、私たちはもう一歩先、自分たちの血肉になるような取り組みをしたかった。ただ「つくる」だけでなく、ブランドを再構築していくレベルに行くには、座学だけでは足りないと思ったんです。本当に必要なプロフェッショナルスキルは、実践しないと培われないと感じていました。

課題③ 社員のwillをWebサイトに反映できない

難波氏:KDDIサイトには、日々ものすごい数の更新依頼が来ます。するとどうしても、「こうしなきゃならない」という請負型の業務が多くなってしまうんですね。そこに、社員のwillや思いはなかなか反映されません。

一人ひとり、考えていることや専門的な知識は持っているのですが、それを発揮するより先に、やらねばならないことが優先されてしまう。これは、組織的な課題のひとつでした。

マルチプルに声がかかったきっかけ

難波氏:上記の課題を解決するために、専門スキルを持った人間を採用するなど、内製化はもともと進めていました。

ただ、コーポレートサイトは企業の顔。そのトップページ改修となれば、もちろん失敗はできません。だからリニューアルに際しては、外部の専門家を招き入れたいと思っていました。

とはいえ、「まるっとプロに任せる」のではなく、自分たちの思いやブランディング上伝えたいことは、自分たちで体現したかった。そのほうが長期的に見て、組織力の強化につながると思ったからです。

そこで、伴走型でやってくれる人を探していたところ、元々お付き合いのあったアマナさんを通じて、平藤さんを紹介していただきました。

アマナ 杉山 諒氏(以下、杉山氏):お話を聞いたとき、KDDIさんはすごいことをしようとしている、と思いました。こういう大きなプロジェクトって、普通は大きい会社にどんと投げるんですよ。多分99%ぐらいはそうだと思う。きっとKDDIさんもこれまでそうされてきたと思うんですよね。

外部に投げると、社員にナレッジは溜まらないし、組織は育たないし、ずっとお金は外に出るし……「せっかく頼んだのに、自分たちは何してるんだろう」というジレンマはあるんじゃないかなと、自分は思っていました。

「完全なプロフェッショナルが集まってるわけじゃないけど、ちゃんと自分たちで考えて、自分たちでアウトプットできる体制を作ろうと思っている。だから手を貸して欲しい」。そう言われたとき、その姿勢にすごく感動したんです。

ちょうど私たちアマナも、クリエイティブな視点とリーダーシップを兼ね備えた「創造性人材」を育てていく事業(Great RIVER)に力を入れているところでした。ただクリエイティブを提供するのではなく、上流からアウトプットまで、組織でできるようサポートする。そんなふうに、KDDIさんを応援したいと思いました。

プロジェクトマネージャーとして平藤さんをアサインしたのは、「平藤さんならいけるかな」と思ったからです。

大企業のコーポレートサイトは、デザインの完成度はもちろんのこと、その手前、あらゆるステークホルダーとの合意形成が一番大切で、一番難しい。それをクリアしつつチームを牽引していけるのは、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルで、ご自身で起業もされている、平藤さんしかいないと思いました。

マルチプル 平藤 篤氏(以下、平藤氏):依頼を受けて、まずシンプルに、非常に光栄だなと思いました。私が元々やりたかったことって、自分の言葉で言うと、「共創する」ということだったので。

Webサイト中心に、モノづくり全般をクライアントと共創することを私はずっとやってきたし、これからもやっていきたいことだったので、その部分を買っていただいたことは非常に嬉しかったですね。

あと、私もKDDIさんの「生き様」に感動したんです。内部にノウハウを貯めて、組織を、人を育てようとしている。大企業だからこそ難しいことを、目を逸らさずにやろうとしている。ぜひ応援したい、力になりたいと思いました。

ただ、自分はここまで大きな組織の共創型Web制作支援の経験がなかったので、正直に「自信はあるけどやったことないです」とお伝えしました。でも、「何とかする気持ちはあります」と。

プロジェクト体制

難波氏:平藤さんにはプロジェクトマネージャーとして、週一回、多い時は週二回、終日会社に来ていただきました。同じ空間で作業をしたり、打ち合わせをしたり、ワークショップを行ったり。多くの社内の事情を知っていただいた気がします。ときに泥臭い部分とか、「こんな部門からこんな意見が出ている」という状況も見せてしまいましたが…(苦笑)。「外部の人」ではなく「同じチーム」として、密にやりとりできる体制で進めていきました。

体制図
体制図

プロセス

①自社調査(要件整理)

行ったこと
・フィールドワーク
・現サイトの課題共有(ヒアリング→要件整理)
・To DoをWBSとガントチャートに整理

平藤氏:要件整理の目的は、関わる人の目線を合わせることです。ただ、外から自分が「こうしましょう」とはあんまり言わないようにしていました。

今回のプロジェクトにおいては、課題も解決策も、すでにKDDIさんの中にあると思っていたからです。自分の役目は、それに気づいていただけるよう支援することでした。

要件書自体は、オリエン時点でまとめていただいていたのですが、当初は自分がKDDIさんのことを理解しきれていなくて、解像度が低かったんですね。「KDDIブランディングを実行する」のが目的ではあるんですが、「そもそもKDDIブランディングって何なんだろう」ということが、まだ掴みきれていなかった。

だから、そこから一緒に言語化したいと思いました。「何のために」「誰に対して」「どんなことを伝えたくて」「結果として何が求められているのか」ということを噛み砕いて言語化し、自分も含め、関わるメンバーがしっくりくる言葉で要件を整理していきました。

スライド資料抜粋
スライド資料抜粋

スライド資料抜粋
スライド資料抜粋

②ユーザー調査

行ったこと
・ ペルソナ洗い出しワークショップ
・ペルソナ設計

「KDDIブランドとは何か」

平藤氏:まずはブランドに関する軽い講義を行ったのち、「KDDIブランドをどのように理解しているか」を、動物に置き換えて言語化するワークショップを行いました。これは、PLAYWORKSのタキザワケイタさんという方が発明したものです。

ワークショップを通じて、一番学びがあったのはおそらく私でした(笑)。いざやってみたら、皆さん一人ひとりが、KDDIブランドをしっかり解釈して言語化できていたんですね。インナーブランディングが十分できているんだなと、すごく実感しました。

ただ、選ぶ動物はそれぞれ違う。つまり、ブランドの解釈が人によって違うんです。なので、一人ひとり違うけれども、「コーポレートトップで見せるべきはこういう姿勢だよね」というのを、さまざまな目線を拾い上げながら整理していきました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子

ペルソナをつくる、ペルソナになりきって考える

平藤氏:そのあと、ペルソナを一人ひとりに考えていただきました。

「今コーポレートサイトに来てくださっているユーザーってどんな人ですか?」と問うと、皆さんしっかりと「こういう人がいる」と答えてくださるんです。当たり前ですが、私なんかより皆さんのほうが知っているんですよ。日頃現場で感じていることとか、お客様からこんな声をいただいているとか、そういった知見が社内に積み重なっている。だからKDDIのペルソナ像も、解像度がめちゃめちゃ高いものを持っていらっしゃいました。

そのうえで、自身が挙げたペルソナになりきっていただいて。彼/彼女の目線で、今のコーポレートサイトの課題や、情報のプライオリティを整理していただくというワークショップを行いました。ペルソナになりきることで、自分の今の目線を外しながらサイトを見られるので、これまで盲点だった新しい課題が見えてくるんです。

ぺルソナになりきって、コーポレイトサイトの課題を見つける
ぺルソナになりきって、コーポレイトサイトの課題を見つける

インナーブランディングのジレンマ

平藤氏:これは私が勝手に言っているんですが、「インナーブランディングのジレンマ」というものがある気がしていて。インナーブランディングは、組織として成長していくうえで重要な要素だと思うんですが、すればするほど「第三者目線が取りづらくなる」っていうジレンマが出てくると思うんです。

しかしそれは、視点に鎖がかかっているだけなんですよね。ちょんってはずしてあげたら取れるんですよ、一瞬で。でもそのきっかけは、インナーブランディングと相反する力を持っているので、内部では見つけづらい。だからこそ、外部の視点が必要なんだと思います。

難波氏:ペルソナについては、自分たちも表面的に理解してはいるし、データや数値を見て把握もしていました。ただ、それぞれ考えていることはあっても、なかなか一同に会して話す機会はあまりなかったので、あらためて自分たちで言語化するのは大切だと感じましたね。

③競合調査

平藤氏:次はデザインの方向性を考えるために、競合サイト調査を行いました。

KDDIのサイトは規模も大きくパブリックなものなので、ユーザビリティやアクセシビリティはもちろん押さえなきゃいけないし、レイアウトもロジカルに考えなければならない。ただそれには弊害もあって、結局、他のサイトと同じようなものになってしまう可能性がある。そこからいかにクリエイティブジャンプするかが、デザインの重要課題でした。

だからこそ、「KDDIにしかできない表現はなんだろう」と皆さんに考えてもらうべく、参考サイトをいろいろ調査してきてもらいました。

ここで差別化できる要素として上がったのが、グローバルナビゲーションです。

競合サイトを並べてナビの特性を見ると、いわゆる「About」ページに、さっと爪痕が残るようなネーミングを冠してスペシャルコンテンツ化している事例が出てきたんですね。言葉選びひとつですが、企業らしさが表現できていていいなという話になりました。

では、「KDDIとは」を表す言葉は何が適切か?ここはかなりディスカッションしました。紆余曲折あって、最終的に「KDDIのつなぐ。」という言葉に決まりました。このページにキラーコンテンツを置いて、KDDIの姿勢を「らしく」伝えることにしました。

スライド資料抜粋
スライド資料抜粋

スライド資料抜粋
スライド資料抜粋

④コンテンツ整理〜設計

行ったこと
・ペルソナ別コンテンツプライオリティ整理
・コンテンツ福笑いワークショップ
・グローバルメニュー整理
・ワイヤーフレーム作成

平藤氏:次は現サイトのコンテンツを付箋に書き出して、優先度「高・中・低」に分類していくワークショップを行いました。

サイト設計に必要なのは「ストーリー」です。ペルソナが何を求めてサイトにたどり着き、どんな情報を見ながら回遊していくのか。その心情に沿ったコンテンツ配置はどんなものか。皆さんでディスカッションしながら考えていきました。

平藤氏:コンテンツの優先度について認識合わせできたところで、次に行ったのが「福笑いワークショップ」です。

これは、文字通り「福笑い」のようなワークショップ。トップページに掲載する要素を模造紙に書いて、それを切ってパーツにして、平場に置いて、「適切な配置」に組み替えていくんです。準備には結構時間がかかりました(笑)。

画面を物理的な場所に具現化することで、「ああでもない」「こうでもない」と、マクロからミクロな視点で、活発な意見交換することができました。

最終的にトップページを7つのエリアとして定義
最終的にトップページを7つのエリアとして定義

平藤氏:ワークショップにおいては公平な場づくりが重要だと思うので、そこは常に意識していました。変な言い方ですが、「声が大きい人の意見が通る」環境をなるべく作らないこと。それから一緒に参加する立場として、「第三者視点」は常に念頭に置いていました。

答えはKDDIさんが持ってらっしゃることなので、それにどう気づいていただくか、どう形にしていっていただくか。私はあくまで、ファシリテーションしているだけ(笑)。皆さんが自走していきやすい土壌をつくる、そんなスタンスでいるようにしました。

⑤デザイン

デザインの進め方

ium 小玉 千陽氏(以下、小玉氏):プロジェクトのキーワードは「共創」でしたので、最初から完璧に整った答えを提示するのではなく、粘土のように柔らかく未完成な状態で共有し、共に問いを深めながら形を探っていくような方法で進めていきました。

大体、たくさんフィードバックをもらうと変な方向にいってしまったり、最終的に「あんまり良くないじゃん」となったりしがちなんですけど。今回はワークショップを通じて、前提のすり合わせや関係値の構築がしっかりできているチームだったからこそ、ブラッシュアップのたびにどんどんよくなっていった実感があります。

難波氏:デザイナーさんに対する指示の仕方も、平藤さんに教えてもらったんです。普段だと「ここは強調したいから赤にして」など、いわゆる「やっちゃいけない指示出し」をしてしまうことも多かったんですが(苦笑)、平藤さんから「それはダメです」と。「もっと自分の、自部門の思いとか、”こうしたいんだけど、それはどうしたらいいのか”」というところを伝えたほうが、デザイナーも修正の方向性をつかみやすいと教えていただきました。「共創」ってこういうことか、と感じました。

平藤氏:デザインするうえで悩んだときは、「茨木さんに聞いちゃおうか!」という場面が何度もありました。茨木さんは私たちの確認事項に対し、すぐ周囲に確認を取ったり、ご自身の中で解を持ってたりで、返しがとても早かったんです。関わる人は多いけど、作業工程はむちゃくちゃ早いのが、このプロジェクトの特徴だったなと思います。

KDDI 茨木 誠也氏(以下、茨木氏):そうですね。たとえば「重要情報障害を掲載したい」という要望が出たときは、その情報を管理している部署に確認を取ることが必要です。関わる人が多いので、KDDI社員としてなるべく動いて、情報を集めるようにしていました。

デザイン時意識したこと

小玉氏:デザインをするときは、いつも頭の中で左脳と右脳のバランスを探ります。KDDIさんのプロジェクトでは、特に左脳を意識的に働かせることを心がけました。「なぜこのデザインが導かれたのか」という理由を明確に説明できるようにすること、そして私、平藤さん、茨木さんが、責任をもって周囲に伝えられるようにすることが重要だと考えていました。

そのうえで大切にしたのは、機能と心地よさの調和。機能性だけを追求すると、無機質で事務的な印象のサイトになってしまいます。ただ、KDDIさんという企業には、真面目さや誠実さの奥に、暮らしを柔らかく支えるような優しい感触がありました。そこで、論理的な骨格の上に、誰が見ても直感的に「いいな」と感じられる美しさを目指したいと思いました。

デザインするうえで、丁寧なワークショップを通じて設計の核がしっかり固まっていたのはとてもありがたかったです。情報の整理はもちろんですが、各部署間の調整といった難易度の高い作業を迅速にご対応いただいたことが、スムーズなプロジェクト進行につながったのだと思います。

平藤氏:デザインのインターフェースで印象的なのは、「トビラ」と「つなぐ」のセクションですね。

デザインを検討するなかで、「KDDIさんらしいサイトにするにはどんなUIだったらいいの?」という相談を、小玉さんに相談させていただいたんです。設計をそのままかたちにしていくと、「ただきれいなサイト」「企業らしさが感じられないサイト」に見えてしまう。それは違うよねと。

そしたらバーンと、中間ページにある「つなぐ」と「トビラ」のデザインをご提案してくださって。モーションでスクロールしながらぐわっと変わっていく。キラーコンテンツとして見せるところを、しっかり印象づける。この提案にはしびれました。

茨木氏:「つなぐ」のエリアに関しては、プロジェクトメンバーの意見を精査しあって、「KDDIとして伝えたいことをどう見せるか」話し合った部分でした。

だからこそ、がちゃがちゃ動くのではなく、「つなぐ」をテーマにいろいろなコンテンツがつながっている風景であるという、ストーリーのあるインタラクションを入れていただいて感動しました。こちらの表現したいことを、視覚的に実現していただいたと感じました。

デザインシステム

小玉氏:一般的なコーポレートサイトでは、あらゆる可能性を事前に想定したうえで、完璧なシステムを設計していきます。しかし規模が大きなサイトの場合、「ルールを設定しても次々と例外が発生し、その度に新たなルールが生まれ、結果的に複雑化していく」という状態になりがちです。KDDIさんからも、このような課題を抱えているとお聞きしていました。

そこで今回は、ガチガチのルールをあらかじめ作り込むのではなく、「今回のリニューアルページをベースに、まずは現状で運用できる範囲から始めよう」という柔軟な考え方で取り組みました。未知の可能性を全て先回りして整備するより、「ひとまずこの形でやってみましょう」という姿勢が適切だと思ったからです。

このような提案ができたのは、KDDIさんへの信頼があったからこそです。新しいページを作る際に、「新たなルールを作らなければ」ではなく、「現状のルールでどのように対応できるか」「現状のページの構造が十分伝わる形になっているだろうか」という視点で考えていただけるのではないかなと。プロジェクトを通じて、そうしたアプローチができる体制が整ったのではないかと思っています。

制作したページを基にして定義されたデザインシステム
制作したページを基にして定義されたデザインシステム

平藤氏:今後はデザインシステムをもとに、徐々に下階層ページがブラッシュアップされていくといいなと思っています。それをKDDIさん側で実現していただくことが、私たちの元々の望みでしたから。

小玉氏:「そもそも数千ページも本当に必要なのだろうか?」という、根本的な問いに立ち返ることも重要だと思います。今回のワークショップを行ったように、本質的な問いからサイトの構造を見直していただければ、企業の内部だけで質の高いウェブサイトを生み出せるという素晴らしい成功事例になるはずです。

社内調整から情報整理、そして実際の制作まで一貫して自社で遂行することができれば、それは日本の企業全体に対して。前向きなメッセージを与えることになるのではないでしょうか。

⑥プロジェクトを振り返る

「will」を引き出し、共に創る

茨木氏:「ブランディングのプロセスを経て、アウトプットに落とし込む」までの流れは、どうしても分業されがちです。だからこそ今回、プロジェクトメンバーがその全体に関わって手法を学べたのは、非常に大きなことでした。

プロジェクト後の業務でも、「前提ってどうなってるんだっけ」「これってどうしてこうなってるんだっけ」っていうところから、「そういう課題があるのなら、こうしたらいいんじゃないか」と問題提起していく場面が増えています。このプロジェクトで学んだ考え方が、別のプロジェクトでも直接役に立っているという話も聞いています。

平藤氏:それは嬉しいです。やっぱり皆さん一人ひとりが、自分なりの答えやwillを持っているんですよね。だから正直、プロジェクトの序盤で「このままやっていたらうまくいくな」と思っていました(笑)。

あと、もうひとつ伝えたいことがあります。

今回、「我々が入ることで、このプロジェクトが成功した」というのは違うと思うんです。KDDIさんの体質が、元々「共創」だったからこそなんですよね。

「Tommrow, Together さあ、一緒に。おもしろいほうの未来へ。」と掲げていらっしゃっている通り、いろんな人や企業や団体と、コラボをたくさんしているんですよ。常日頃から、共創しまくってるんです。そういう体質が社内にあったことが、プロジェクト成功につながったのではないかと思います。

難波氏:あまり自覚したことはありませんでしたが、第三者的に見ると、うちってこんなに共創していたんですね。それは新たな発見でした。

社員の行動規範に、KDDIフィロソフィーというものがありまして、そのなかに「外を知る内を知る」というものがあるんですけれど、今回は外からの目線を入れていただくことで、気づくことがたくさんありました。

それから、プロフェッショナルの人の呼吸をそばで感じられたのも、社員にとってすごく貴重な経験でした。長い時間議論したり、平藤さんの作業を横で見たりするなかで、プロの暗黙知を学ぶといいますか。「平藤さんはこういう考え方するんだな」「そんな発想自分にはなかった」「Figmaの使い方ってこんなのあるんだ」「すごいアウトプット早いな」のように学んでいく。普通のクライアントワークだと、アウトプットの過程を社員は感じ取ることができません。でも、今回はその過程をご一緒できたので、社員のスキルアップを加速度的に体験することができました。組織の血肉になったのを感じています。

アマナ 瀧野 哲史氏(以下、瀧野氏):お疲れさま会のとき、KDDIの皆さんが楽しそうに「平藤さんのやり方が”平藤メソッド”という名称になって、あちこちで使われてるんですよ」と話していたんです。お互いがお互いをリスペクトし合ってる空気感や、「平藤メソッド」という言葉が当たり前のように使われている現象を見て、自分たちもとても嬉しかったですね。このプロジェクトに関われて光栄だなと思いました。

難波氏:最近も、キャリアの浅い女性社員が「平藤メソッド」を使ってペルソナを考えてきてくれました。私たちはそれを見て「平藤メソッドにはまったね!」と。Webサイト制作以外にも、このメソッドがいろいろな仕事に波及しているのを感じます。

平藤:いやあ、ありがたいです。

茨木氏:プロジェクトは、これで終わりではありません。「KDDIといえばこのデザインである」という、社内社外に対する周知を今後は考えていきたいですし、まだまだやることはたくさんあります。

打ち合わせ跡地(KDDI会議室)
打ち合わせ跡地(KDDI会議室)

「何をしたか」ではなく「何のためにしたか」

難波氏:プロジェクトを経て、社員が上層部へ行う提案の説得力、言葉の重みが変わったと思います。ただ「こうしたい」ではなく、いろいろな意見を汲んだうえで「〇〇を実現するために、今回〇〇したほうがいいと思う」という提案が、ロジック立ててできるようになっている。こういった力は、外注したのではきっと得られませんでした。

小玉氏:皆さんのお話を伺っていて、コーポレートサイトを「自分たち自身のもの」として捉えていただけていることを実感し、デザイナーとして嬉しく感じています。

通常のプロジェクトでは、納品後に「あ、なんか自社サイトが変わったんだな」という程度の認識で終わってしまうことが多いなかで、今回は、自分たちの企業の顔となるサイトを、自ら考えて作った。それだけでも価値のあることですが、さらにそこに「自分たちで作り上げた」という共通認識がある。

この共創型のWebサイト制作は、企業サイト制作の新しいあり方だと思いますし、今後さらに広く知られていったらいいなと思います。

平藤氏:「つくる」だけが目的であれば、外部に依頼すればいいんです。KDDIさんは今回それをせず、あえて遠回りしてでも「共に考え、共に創る」ことを選んだ。一緒に切磋琢磨したからこそ、ただ1ページを作っただけじゃなく、Webサイト制作のノウハウや考え方を社内に蓄積できたのだと思います。

昨今、AIの存在がどんどん広まっているじゃないですか。何でもコスパが重視されて、本も要約されて内容がすぐわかっちゃったりする。

じゃあ、読書とAIって何が違うんだと。それは、そこに「体験」があるかないかだと思うんです。読書とは、その物語を体験すること。その体験こそ、自分に新たな視点や力を与えてくれる。生きていくうえで、大切な資産になる。それがまさに、今回やったことであり、これからマルチプルとして力を入れていきたいことでもあります。

制作クレジット
CL:KDDI株式会社 ブランドマネジメント部
AG:株式会社アマナ
Plan & WF:KDDIブランドマネジメント部
PM & Director:KDDI茨木、MULTiPLE Inc.平藤
Design:ium inc 小玉、阪井、望月
Coding:あとらす21


【転載許可記事】
※ 取材:2025年5月 聞き手:笠井 美史乃 文:神保美月(デザインスタジオ・エル)
※ 本記事は雑誌Web designingの取材をもとに作成されています