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CREATOR INTERVIEW VOL.22

アワード受賞はあくまで結果、忘れてはいけない「クリエイターとしての軸」

UNIEL ltd.

19歳からキャリアをスタートさせるものの「才能がない」と諦めていた時期もあった野田氏。そんな彼がアワードを受賞、30歳で審査員を務めるようになった背景とは?

デザインアワードの審査員を務めるクリエイターは、一体どういった人物なのか―― AWWWARDS、CSS Design Awardsの審査員を務める、株式会社ユニエル(以下、UNIEL ltd.)代表取締役・野田一輝氏。19歳の頃からクリエイティブ業界でのキャリアをスタートさせるものの、「自分には才能がない」と諦めていた時期もあったという。そんな野田氏が、これまで多くのアワード受賞を経験し、30歳にしてアワード審査員を務めるようになった背景には、どんな出来事があったのだろうか。それぞれのフェーズにおける野田氏の思い、そしてクリエイターにとってアワードとは何を意味するのか、野田氏なりの考えを伺った。


「自分にできることは他にない」19歳からはじまったクリエイティブキャリア

株式会社ユニエル 代表取締役・野田一輝氏
株式会社ユニエル 代表取締役・野田一輝氏

まず、これまでの経歴について教えてください。

19歳のときに某Web企業に入社したのですが、当時のその会社はPhotoshopを使える人間は重宝されていて。素人ながら少しでもデザインに前向きな姿勢を認めていただきたいため、毎日のようにデザイン提案を行う日々の中、いつのまにか制作の仕事をやるようになっていましたそれが、クリエイティブ業界でのキャリアとしての始まりです。

その後「もっとデザインに注力したい」と思い、飲食店のメニューや街頭のポスターを制作するグラフィックの会社で勤め、エディトリアルデザインを行う会社に移るなどして、デザインと向き合う時間をつくりました。

最終的には、もう一度「Webのサービスに携わってみたい」と感じて、Web制作・運営を行う会社に務めながら、コードを独学で覚え、フリーランスとしてFlashデザイナーのお仕事をメインとしてました。

そして、24歳のときに入社した前職の会社はWeb制作を行っている会社だったのですが、初期の頃からマネージャーを任されるようになり、仕事の内容もいわゆるデザインの仕事だけでなく、ブランディング領域にも関わるようになっていきまして。

最終的にブランディングチームを結成するなどを経験させてもらい、その後2015年にUNIEL ltd.を立ち上げた、というのが今に至るまでの簡単なキャリア遍歴です。

なぜ「クリエイティブ業界」を選び続けたのでしょうか?

それしか自分の中で選択肢がなかった、というのが本音です。ネガティブな意味合いではなく、「自分ができることはこれしかないんだ」と思っていたので、ポジティブにその道を進もうと思っていて。

また、20代前半の頃は社会人経験・業界経験も浅いので、ADや周りの方によく叱られていて。「自分はまだまだクリエイティブ領域でできないことがたくさんあるから、もっと成長しないといけない」と自然に思うようになっていったことも大きいかもしれません。

「指示されてデザインする方がラク」Flash終焉でクリエイティブを諦めた

 
 

野田さんは数多くのアワードを受賞されていますが、最初にアワードを意識したキッカケはありますか?

20代前半の頃、ロサンゼルスに何度か行っていたんです。それで、現地で知り合った方から海外のサイト制作の案件を紹介してもらって、Flashをメインとして仕事をしていたんですよ。そのときにアワードやギャラリーサイトの存在を知って、「自分でも世界に発信できるチャンスがあるんだ!」と思ったのがキッカケです。

当時、日本ではアワードが今ほど多くはありませんでしたし、SNSなどもないので、自分のレベルを知る術があまりないんですよ。また、そこまで業界に詳しいわけでもなかったので、すごい人たちと自分のレベルの差がわからなくて。アワードは、力試し的な感覚でした。

ただ、途中から「自分には才能がない」と諦めの気持ちがあって、しかもFlash時代が終わったときに制作熱も冷めてしまったんです。もっといいクリエイティブを!と意気込むというよりは、ただの “仕事” として思っていましたし、指示されてデザインする方がラクだなと思っていましたね。

そこから、またクリエイティブに目覚めたのはなぜでしょうか?

まだHTML5についての情報がほとんどない時代、HTML5でつくられているWebサイトに出会い、「ここまでできるんだ」と感動して。

とあるプロダクトのWebサイトだったのですが、そのプロダクトが分解されて、奥行きや回転など、Flashを使わずに表現していたんですよ。そのWebサイトと出会ったときに、これからのWebの可能性を強く感じて。素直に「すごい」と思ったんですね。

それを機に、また新しいものをつくりたいと感じました。

そしてそのタイミングで、前職の会社ではクオリティよりもスピードと低予算を第一とした商業デザイン案件ばかり続いていた時期だったのですが、代表から「枠にとらわれずに、ベストだと思うものを作ってごらん」と言われて、本格的にアワードを意識するようになりました。

ただ、自分自身はデザイナーというよりも途中からマネージャー職に就いて、メンバーを見ている時間が多かったんですね。そのため、「デザイナーでありたいのに、マネージャーとしての役割も果たさなければいけない」と自分の中で常に葛藤があって。

そんなとき、プロジェクトの性質のせいにして「自分はかっこいいものがつくりたいんだ」と文句を言うメンバーがいたんです。その言葉を聞いて、「自分の提案する力によって、お客様が喜ぶ方向でアワードを狙っていこう」と本格的に思うようになりました。要するに背中で見せるスタイルですね。

会社のレベルがひとつ上がった喜びを感じた、はじめてのアワード受賞

 
 

AWWWARDSではじめてアワードを受賞されたときは、どんな思いでしたか?

当時AWWWARDSを受賞している企業が少なかったので、そこに前職の会社が並べたことに単純に嬉しかったです。受賞したのを知ったときは家族と展示会にいたのですが、自分が知るよりも早く、職場や同じデザイナーの方々から「おめでとう!」と連絡が来て、何だかあっけない感覚ではありました(笑)。

受賞サイト:TokyoMildFoundation株式会社
受賞サイト:TokyoMildFoundation株式会社

アワードは、メンバーのモチベーションを高めたいというインナーブランディング的な狙いもありましたし、会社をもっと外に発信していくべき、エクスターナルマネジメントをしていくべきだと考えていたので、アワード受賞によって会社がひとつ上のレベルにいけたな、という喜びが強くありました。

また、当時その会社は制作会社というよりも、「何かと話題性のある会社」という認知が業界内で広まっていたので、「話題性だけではなく、制作ができる会社」だと認知できたのではないかと思います。

アワードを狙っていたのも、どちらかと言うと「自分のため」というよりは「会社のため」という思いが強かったんですよね。会社が良いものをつくってると認知されれば、それだけ良い人材が集まり、プロジェクトもいくらか提案しやすい環境になるだろうと計算はしていました。

当時の代表からも、「うちに入ってくれて、本当にありがとう」と言ってもらえて。自分はどちらかというとナンバー2気質なので、そうやって誰かに喜んでもらえること自体が嬉しかったです。

そして現在、野田さんはAWWWARDS、CSS Design Awards、The Webby Awardsの審査員を勤められていますが、審査員になったキッカケはなんだったのでしょうか?

アワードに応募するような技術の高いクリエイティブに触れていたいという思いもあり、実はずっと審査員になりたいとオファーを出していたんです。だけど、なかなかなれず「もう無理かな?」と思ったタイミングで、なぜかご連絡をいただきまして審査員になることができました。

前職のときもそうでしたが、世の中に少しでも認めてもらえるものをつくっているということで会社の評価も変わりますし、説得力が違ってきますよね。いま僕がアワードの審査員を務めていることで、社員の士気も多少は変化すると思います。

「僕たちは、クリエイターである前に社会人」アワードはあくまでも指標でしかない

 
 

クリエイターにとって、アワードはどういった存在だとお考えですか?

アワードを受賞するというのは、言ってしまえば「同業者間での認知」です。企業の認知もあがりますし、クリエイターとしての評価も高まり、モチベーションにもなります。しかし、アワード受賞はあくまで指標であって、ゴールではないと思っています。

またクライアントワークでアワードを狙うというのは、お客様との利害関係が一致した場合のみにご提案すべきことかなと。根本的にクリエイターとして解決すべきことは、お客様よりご依頼を受けている時点で必ず存在しています。

そのため、個人的には複数のアワード受賞歴があるよりも、お客様のビジネス課題を解決するような、たとえばクリエイティブによってお客様の売上を300万円から1億円に高められるようなクリエイターの方が価値があると感じています。

つまり、アワードをとること自体を目的としてしまい、クリエイターとしての軸を見失うのは本末転倒。どれだけ高い技術を盛り込んで、演出過多なWebサイトをつくったとしても、使いづらいサイトはクライアントやエンドユーザーのためにはなりません。

UNIEL ltd.自社サイト自体もAWWWARDSをはじめ、複数のアワード受賞歴を持つ
UNIEL ltd.自社サイト自体もAWWWARDSをはじめ、複数のアワード受賞歴を持つ

僕たちクリエイターは、クリエイターである前に社会人だと思うんです。そのため考えるべきは、まずお客様のこと。クリエイターだからといって気取っていいわけではないじゃないですか。

実際、アワードを受賞したところで、まわりからの評価は変わるかもしれませんが、直接的にお問い合わせが増えるとか、アーティスト性に応じた仕事が増える、ということは多くありませんし、何かを成し遂げることに、承認欲求を求めてしまうのは良くないと思っています。

アワード受賞によって変わるのは「自信がつく」程度くらいのもので、クリエイターとしてどうありたいかは、他者からの評価ではなく、結局自分次第だなと。もちろん、いいものをつくって評価されるのが私たちですから、お客様のことを考えたクリエイティブで、結果的にアワードを受賞できるのであれば、これ以上嬉しいことはないですよね。