CREATOR INTERVIEW VOL.235
【10周年 記念対談】マルチプル 自社リブランディング対談


MULTiPLE Inc.
DESIGNNOBI 藤本氏 × マルチプル 平藤氏
マルチプルでは自社ブランドのリニューアルを進めてきました。起業時、そして今回のブランドリニューアルに際してビジュアルデザインを担当いただいたグラフィックデザイナーの藤本健太郎氏をお招きし、マルチプル代表の平藤氏との対談を実施。マルチプルのリブランディングプロジェクトをご紹介していきます。
DESIGNNOBI 藤本健太郎さん
グラフィックデザイナー。1979年大阪府に生まれる。2003年に武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科を卒業後、株式会社アイ・デザイン、有限会社スーパーミーにてデザイン業務に従事。経験を積んだのち、2015年9月に自身のデザイン事務所「デザインノビ」を設立。ビジュアルや空間の可能性を探求し、幅広い分野で創造的なアプローチを展開している。
クライミング仲間から、良き相談者へ。「マルチプル設立当初からのつながり」
はじまりはマルチプル設立当初から
平藤:それでは、フジケンさん(藤本さんのあだ名)の自己紹介をお願いできますか?
藤本:グラフィックデザイナーの藤本健太郎です。ロゴやビジュアル制作を中心に活動しています。最近の実績だと、NHKやTEAM WAKAYAMAのロゴを担当しています。



平藤:そもそもフジケンさんとの出会いはいつになるかというと、実はもともとクライミング仲間なんですよね。独立した時からお世話になっているんですが、もう10年ぐらい経ちますかね。
藤本:いや、もっと前じゃないかな。20代半ばでクライミングを始めたから。

平藤:そうですね。井の頭線沿線に住んでいた頃だから2009年。もう16年になるんですね。フジケンさんは当時知人が経営していたスペインバルのグラフィックデザイン全般を手掛けていました。ずっとかっこいいなと、いつかお仕事をご一緒したいなと思っていて、独立のタイミングでお声がけして、ロゴなどのコミュニケーションツール一式のデザインをお願いしました。
ロゴの制作プロセスでは、フジケンさんからの問いに、自分がどんなスタイルで仕事がしたくて、どんな表現が好きなのかをあぶり出していただけたのですが、きっとその制作プロセスがあったからこそ、10年ブレずに会社をやってこれたような気がします。
藤本:そのときはジョージ・マロリーという登山家の方の言葉「Because it’s there.(そこに山があるから)」からタイポグラフィをつくってポスターなどへ展開したね。懐かしい。

10年を経て変化した自社への想い。 「マルチプルが具現化された何かを求めて」
依頼内容は「マルチプルが具現化された何か〜」
平藤:そこで、会社設立10周年を機に新しいマルチプルのビジュアルをフジケンさんに相談しました。2016年当時、法人ではあったのですが、組織化はほぼ考えていかなったので、多くを語らず”雰囲気”だけで限られた人に伝われば十分と思っていた10年前と状況は変わり、平藤が話さなくても、マルチプルが具現化された何かをつくってほしい〜といったニュアンスで依頼したと思います。

藤本:たしか飲みの場でそんな話をされたのが、2023年の年末だった気がします。
タイポグラフィといって文字だけで表現することもできるんですが、せっかくリニューアルするので何か要素を加えてあげたいなと思っていました。平藤くんと話し合いをしながら徐々に制作物のイメージや、制作対象物をすり合わせていきました。
平藤:たしかはじめに制作着手してもらったものが、”Value”を言語化したタイミングだったので、忘れないように日々目に触れる場所に掲載してほしい〜と相談しました。 とはいえ、いわゆる標語っぽくない感じで〜と。
Value
1. 美意識をもつ Be beautiful.
2. 誠実である Remember integrity.
3. ユーザー視点をもつ Have a multiple viewpoint.
4. 圧倒的なスピードで驚かす Surprise you quickly, beyond one’s assume.
5. 対話を諦めない Face it without giving up.
6. 学びを怠らない Keep enjoy learning.
7. 仲間を助ける Assist our team.※マルチプルが掲げている7つのValue Webサイトより引用
藤本:標語っぽくなく〜というオーダーに対して、何が最適な表現か模索しました。はじめは、オフィスの壁にカッティングシートでValueを表記する〜といった表現を模索しましたが、現在のオフィススペースには、ポスターが最適だと考えて、少し変わったポスターで表現しようと考えました。しかし、平藤くんから提供があったのは、Valueの言葉だけだったので、何かしらビジュアルが必要だと考えていました。
山を伴走し、頂上で道を譲る――。「山岳案内人に見るマルチプルの仕事」
テーマ/モチーフの決定

平藤:フジケンさんに「いつまで経ってもマルチプルが何しているか分からない〜」といわれていたので、何かしら創作のヒントになるようなネタを伝えないと〜と思っていた中で、映画『剱岳 点の記(つるぎだけ・てんのき)』に登場する宇治長次郎とマルチプルのスタイルや価値観が重なり、その話を伝えました。
藤本:それいいじゃん!ってなりましたね。映画を観て腑に落ちました。これは絶対に比喩表現を使ったほうがいい、ここで描かれている宇治長次郎をモデルにしましょうと。
平藤:マルチプルの仕事の本筋はプロジェクトマネージャー、つまりプロジェクトを伴走する人間です。それが山岳案内人と呼ばれる人たちと重なったんです。地図を描いて「こう行ってください」と指示を出すスタイルではなく、山を登りたい人とともに命がけでともに山を登りながら伴走する人です。
藤本:映画の中で印象的なシーンがあるんですよね。山岳案内人は、測量隊が地図だけで登れないところを一緒に登って彼らを助けてくれます。下調べをして、聞き込みをして、入念な準備をして、必要な荷をたくさん持って、ずっと危険な山道を伴走し続ける。でも最後、頂上に着く瞬間に測量隊の人たちに先頭を譲るんですよ。頂上に登るのは自分の仕事じゃないから、と。
そこにマルチプルの姿を見たんですよね。目的を持って頂上に向かう人たちを全力でサポートしつつ、頂上を譲る謙虚さ。それがスッと入ってきたので、この映画のモチーフに採用しましょうと提案しました。
イラストは、イラストレーターの山本由実さんに依頼しました。リトグラフと言われる切絵の手法を取り入れており、手仕事感がマルチプルのウェットさ(?)を表現していると考えました。
平藤:是非イラストの細部をよーく見てもらいたいです!
キャッチコピー「Stand By You™」
藤本:ビジュアルの方向性は見えてきましたが、オーダーにあった「マルチプルが具現化された何か」にはまだピースが足りていないと感じていました。言葉や資料でたくさんマルチプルのオリエンは受けたものの、マルチプルをひとことで表現した言葉がないことに気づき、「Stand By You™」というコピーを提案しました。

平藤:当初は、ビジュアルを補足するためのコピーでしたが、フジケンさんの承諾を得た後、サービス名としても採用させてもらいました。現在商標登録も申請中です!
「つくる」から「ともに考える」へ。── 株式会社マルチプル、新サービス『Stand By You™』を提供開始
株式会社マルチプルのプレスリリース(2025年8月7日 09時00分)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000166138.html
藤本:そうそう、サービス名として使わせてほしい〜と言われたときはちょっとびっくりしたけど、マルチプルのサービスである「共創型Web制作支援」を表す言葉として最適だと思ったので、使ってもらっています。
実は、はじめはお遍路さんで使われる「同行二人(どうぎょうににん)」という言葉を提案していたんですが、少し宗教色があるからやめようか、と。提案しながら、もっとないかな、もっとないかなと考えていたときに、映画の話を聞いて長次郎さんの「わしは山に登りたいんじゃない。山に登りたいと思う人を登らせたいだけだ」という台詞があることを知り、そこから着想を得ましたね。

平藤:はじめはピンと来なかったんです······。こんなに伝えたいことがあるのに、3語にするなんて!と。でも日本的な古風な重みのあるイラストと、グローバル化された言葉の雰囲気とのかけ合わせがしっくりきました。
藤本:僕もこの行動指針(Value)がペタっと標語みたいに張ってあるのは嫌だなと思っていたので、最終的には、ボディコピーである「Stand By You™」を読めるか読めないかぐらいのデザイン文字にして、映画のタイトルのようなあしらいにしたらどうかと提案しました。パッと読めないぐらいのほうが、相手に投げかけるような印象になるんじゃないかと。イラストにデザインを寄せつつ、行動指針はキャストの名前のように配置しました。「Stand By You™」という物語を体現するために必要な要素としてこの行動指針があるんだと感覚的にわかるようにしています。

ビジュアルの多角的な展開。「お祭り感とデジタルの融合」
映画をヒントにしたイラストを絵葉書に
藤本:10年前に制作したノベルティのひとつである手ぬぐいの評判がよかったので今回もオリジナルノベルティの制作依頼ももらっていました。

検討するにあたって、もうこの映画が大好きになっちゃって(笑)。長次郎という人物がいて、他に具体的に何をビジュアルに落としていかないといけないか模索したときに、次にキーになりそうなのは三等経緯儀(さんとうけいいぎ)だな、と。映画で測量隊が測量に使っている機械のことで、すなわちプロジェクトの目的・目標を表すモチーフとしました。雷鳥は知識の象徴として、おにぎりや天幕などは山行の必需品として。そういった山岳案内人や測量隊の人々が使っているもの、荷として背負っているものの中から象徴的でビジュアルとしてわかりやすいモチーフを選んで描いてもらったイラストで、絵葉書を制作しました。




平藤:絵葉書ができたので、10周年を迎えるタイミングでのお知らせとしてこれらをDM発送したところ、受け取った方々からメッセージをいただくなど、たくさんの反響がありました。とはいえ、イラストの意味が伝わっていなかったりするので、このnoteでイラストの意味や意図を保管できれば嬉しいです。
周年イベントとしてひとくくりにした10周年記念ロゴ

平藤:10周年であることを広く周知したかったので、10周年とわかるような記念ロゴもフジケンさんにデザインしてもらいました。この10周年記念ロゴはノベルティのステッカーにも展開されているのですが、WebサイトやSNSなど、10周年をひとつのイベントとしてひとくくりにする重要なビジュアルになっています。
ちなみに、10周年記念ロゴは、デザイン面としてどんな意図があったのですか?
藤本:まず、大きく3つのデザイン案を制作して、すりあわせしていったと思います。いままでのマルチプルの流れからするとAの雰囲気が合っていると思っていたけど、もう少しお祭り感があってもよいと考えていたので、BCに遊びを入れて提案しました。

また、以前のマルチプルのビジュアルはモノトーンで統一されていたので、それとは違った方向を提案しました。
最終的にテーマとしては、モノトーンからカラーへのプロセスをデジタルの象徴として、ピクセルをイメージしたモチーフの組み合わせとしてまとめました。
11年目のマルチプル
平藤:ということで、フジケンさんはたいてい僕が困ったときに話し相手になってくれる頼もしい相談者なのですが、設立当時からマルチプルに関わっていただいて、フジケンさんに見えていること、思うことなどあれば教えてもらえますでしょうか?
藤本:当時、マルチプルの業務内容は何かキリがかかったような印象でしたが(笑)、10年後の今、平藤くんの口から業務内容について山岳案内人の例えがスッと出てきたように、会社のビジョンもかなり明確になった印象を受けています。今回のビジュアルはマルチプルの価値観を山岳案内人に例えたことから生まれたものですが、映画や小説で伝わってくる宇治長次郎の底知れぬ情熱、なぜそこまでして?と思わされるような熱量も平藤くんと重なります。
出会った当初は涼しげで飄々とした印象を受けていましたが、お仕事で関わったこの10年の間に内に秘めたマグマみたいな熱源に辿り着いたような気分です。是非、映画で香川照之扮する宇治長次郎をご覧いただき、その恐ろしいほどの「熱」を感じて欲しいです(笑)
平藤:ははは、なんか照れますが、ありがとうございます! それもこれも長い時間をかけて壁打ちに付き合ってくれたからこそだと思います。
「マルチプルが具現化された何か〜」というオーダーに対して制作いただいた、クリエイティブを武器として、マルチプルをインナー・アウターに理解してもらえるようにあとは我々が努力するだけですね。次の節目まで走り切るための、すごくいい旗印になりました。ありがとうございます!!!
【転載許可記事】
※ 本記事は元記事を流用し、当社メディア向けに一部調整して掲載しています。
※ 取材:2025年8月 文:岸のぞみ(LIFE MEDIA,Inc.)写真:高橋まみ(MULTiPLE Inc.)

