CREATOR INTERVIEW VOL.29
クライアントから「愛しています」と言われたブランディング案件はいかに進行していったのか


UNIEL ltd.
様々な企業ブランディングを行うユニエル。同社が手掛けたプロジェクトで取引先から「安心感がありました。愛してます」との言葉をいただいた仕事のやり方とは?
デジタル、アナログの垣根を越えて、様々な企業のブランディングを手がけるクリエイティブデザイン集団・株式会社ユニエル(以下、UNIEL)ですが、2018年9月にリリースしたある案件では、“ユニエルらしさ” を再発見した、と代表の野田一輝氏は語ります。 その案件とは、プロデューサーズカンパニーである「株式会社ハッチ」(以下、HATCH)のコーポレートサイトのブランディングプロジェクト。 もともとスケジュール上では3ヶ月程度の予定であった本プロジェクトは、最終的に一年近い期間にて関わる機会があり、リリース時にはHATCH代表の本間氏より「UNIELのやり方は、とても安心感がありました。愛してます」という言葉をいただいたと言います。 そこで今回、実際に用いられた提案資料やワイヤーフレームを交え、HATCHコーポレートサイトのブランディングプロジェクトの裏側に迫ります。
ヒアリング&ワークショップ:「会社としての見え方」「事業部としての見え方」の溝をどう埋めるか
最初のお問い合わせ時は、「採用強化や認知向上を高めるために、コーポレートサイトのブランディングをしたい」というオーダーであった本プロジェクト。そこでUNIELではブランド設計のためヒアリングを重ねていきますが、HATCHでは複数の事業を展開しており、HATCHが求める「会社としての見え方」と「事業部としての見え方」に対しての課題があるということがヒアリングなどで明確になりました。
そこで、すべての事業部長へもヒアリングを行い、あらためて事業部ごとの取り組みやブランディングの振り返りを整理。また代表、事業部長全員でのワークショップを行い、会社と事業部それぞれのブランドの方向性やプロジェクトの与件を整理していきます。
そして最終的に明確化された本プロジェクトの目的は、大きく4つにまとめられました。
- 各事業が独立した見え方を整え、アプローチしたい
- 自社の取り組みを含め、特徴訴求をしたい
- ウェブアプローチ訴求点を変更し、人材採用、営業に役立てていきたい
- 何者かを伝え、企業認知をしたい
ブランド設計:3ヶ月以上もの期間をかけて、チーム全体で対話を重ねて方向性を決めていった
UNIELでは#「ストーリーとしての魅力=サービスとしての魅力」#という考えから、ストーリー構造に当てはまる形で、与件を整理していきました。
そして今回、会社の見え方や各事業のコンバージョンのみではなく、人材採用にも繋げていくという目的から、HATCHのコーポレートサイトのメインターゲット、サブターゲットはそれぞれ、「事業をプロデュースしてほしい企業」「従業員・これから採用したい人材」と設定。
サービス提供価値を再整理し、機能ベネフィット、情緒ベネフィット等をまとめ、HATCHとしてのブランドパーソナリティ・パーセプションゴールを策定していきます。
また、今回のプロジェクトの目的の1つはHATCHとしてだけではなく、各事業が独立した見え方になること。そのため、ストーリー構造にあてはめた与件整理は、会社としてだけでなく、事業部ごとにも行っていく必要があります。
そこでUNIELはワークショップを重ね、会社、事業部それぞれのブランドパーソナリティ・パーセプションゴールを決めていきました。
しかし、「HATCHとしてのブランドの方向性を決めていくことは、とても難しかった」と野田氏は語ります。その理由の1つは、HATCH自体が非常にスピード感のある企業であったため、数ヶ月経てば各事業の方向性が変わる場合があったことです。
それゆえ提案内容のリテイクは何度も発生。UNIEL側の窓口は当初1名体制でしたが、コミュニケーション量が非常に多くなっていたため、チーム全体で先方とコミュニケーションをとる体制に変更することに。
野田氏自身も、HATCH代表の本間氏と都度電話で相談するなど、対話を重ねて認識を深めていったと言います。結果的に3ヶ月以上の期間をかけてブランドの方向性を定め、ワイヤーフレーム、デザインに落とし込んでいきました。
デザイン:1言われて10を返すコミュニケーションでサイトを進化させていく
上述の通り、HATCH自体がスピード感のある企業であったゆえに、ワイヤーフレームでガチガチに要素を固めるのではなく、実際にデザインを進めていきながら進化させていきます。
しかし、デザインを進めながらの軌道修正は容易ではありません。どこかで最終案をFIXさせない限り、永遠に修正が発生してしまうからです。
そこで野田氏は「1言われて1を返すデザイン出しではなく、1言われて10を返すようなコミュニケーションを取ることで、クライアントに満足してもらえるデザインに仕上げていった」と語ります。オーダーにないこともプラスアルファで返していくデザイン対応で、HATCHの新コーポレートサイトは生まれました。
また今回、当初の課題であった「HATCHとしての認知を上げる」ために、もともと存在していたハッチくんというキャラクターを全面に出すデザインへ。「あのキャラクターと言えばHATCHだよね」となる状態を目指しました。
そしてプロデューサーズカンパニーとしてHATCHをどう顧客に使ってもらうか、事業部ごとのシナジー訴求などを考慮して幾度もサイト構成を練り直し、さらに競合他社と差別化を図るため、ファーストビューでは「いまの時代だからこそ、アナログなタッチでハッチくんを目立たせよう」と、ハッチくんのアニメーションを起用します。
HATCHではクリエイターマネジメント事業も展開するため、「UNIELだけで制作するのではなく、HATCHのまわりのクリエイターも巻き込んで制作しましょう」と提案。実際に使用されているアニメーションは、HATCHがマネジメントするアニメーターに依頼し、仕上がりました。
実装:「遊び心」を意識してコーディングを進めていった
実際にリリースしたHATCHサイトを見ていただくと、ファーストビューのアニメーション以外にも、ローディング画面ではハッチくんが走っていたり、「コンタクトページ」ではハッチくんがお尻を振っていたりと、要所要所でキャラクターのハッチくんを起用したデザインになっています。
そして、様々な事業を体現するように、「遊び心を意識して、コーディングを進めていった」と野田氏は語ります。たとえばCOMPANYページでの画像スライドでは、ハッチくんの丸みを意識したスライドに。TOPページでは、スクロールすると見出しが波打つような動きをするなど、HATCHの世界観をマイクロインタラクションに込めていきました。
また、映像による演出が多いサイトだからこそ他の動画と干渉しないよう、連番での実装も意識したと言います。たとえば、サイト左上のロゴはGIFではなく連番で表現するなど、HATCHが持つ素敵な素材を活かすための、細かな配慮が施されました。
結果:「UNIEL自身の強み」も見つけられるプロジェクトだった
2017年11月にスタートした本プロジェクトは、2018年9月にリリースを迎えます。もともとは3ヶ月程度の制作期間を予定していましたが、最終的には1年近くの期間を要したプロジェクトでした。
野田:様々な企業の制作案件に携わってきて、「すごい良いです!」とクリエイティブを褒めていただく、稼働だけを褒めていただくということはあるんですね。だけど、今回のHATCHさんの案件では、僕たちの人間性の部分も褒めていただけました。
というのも、HATCHさんとは今回非常に多くの時間を使ってコミュニケーションを取ってきました。対話を重視したプロジェクト進行は、工数も多くかかります。だけども、HATCHさんの代表である本間さんからは「UNIELのやり方は、とても安心感がありました。愛してます」と言ってもらえて。
本プロジェクトを通じて、UNIELの良さは、あらためて泥臭くても「対話」なのだなと気づきましたし、とても勉強になりました。そして愛のあるコミュニケーションはあらためて大切だなと感じることができました。
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実は本プロジェクトはいまだ進行中となっており(2019年1月時点)、今後はHATCH各事業部のサイト・コンテンツ制作が行われていきます。愛のある対話を通じて、HATCHコーポレートサイトは今後も進化し続けます。